診療所建築の設計・施工業者の選定において、「ハウスメーカー」と「設計事業者+工務店」のどちらが良いかという二項対立的議論をよく耳にします。

 また、業者選定に失敗しないためには、「信頼出来る人から紹介してもらい、相見積りをとって対応誠実、成果物の提案も適切、かつ、経験のある業者の選定が望ましい」などとも言われます。

 しかし、最終的な正解は、発注する開業医自身の満足度によるため、私はこうした二項対立論や一般論はあまり意味がないと考えています。

 診療所設計・建築の世界で「うまくいった」の定義は主観的であり、何より再現性が難しいゆえ、一般的に「よい」とされるやり方が必ずしも正解とは限らないからです。

 そもそも、診療所建築では、開業医自身が「パーソナライズされたもの」を求めるか否かが最初のステップになります。医師の診療方針が個別であるように、建築にもパーソナライズされたものを求める傾向が圧倒的に強いものです。

 したがって、診療所建築に携わる設計・施工業者には、そのパーソナライズに対応できるスキルを備えているかが問われます。要は「個別最適な設計・施工業者選び」が真の目的だということです。

 しかし、前述した一般的に言われる選定法では、パーソナライズに対応できず、定型化した設計・建築しかできない業者を選んでしまう可能性が高いのです。

 その前提を認識していただいたうえで、診療所建築における「設計業者」選定の最大のポイントを挙げると開業医師の「WHAT(診療所の建築目的)」になります。

「WHAT」は、設計・施工業者選定やその後の建築プロセスにおいて、開業医と業者がビジョンを共有するうえで非常に有効です。私の知る範囲で過去の失敗事例をひもとくと、そのほとんどが「WHAT」の曖昧さに起因しています。

開業医が「WHAT」を作るポイントは2つです。

1:極力1センテンス以内でつくる

(例:〇〇診療所は〇〇エリアを対象とし、誰にとって必要な〇〇の診療を行います。他の診療所とは〇〇が異なり、〇〇の診察することにより、〇〇を実現します)

2:上記1に「あいまい」さがある場合は「定義」を書き出してみる

ただし、「WHAT」構築の際、「HOW(どうやって)」は考えてはいけません。「HOW」も一緒に考えると、過去の経験の枠にとらわれ、結局「WHAT」は無難なものになります。それではほとんどの開業医が望むパーソナライズされた建築物は生まれません。

この「WHAT」が創造的で納得ゆくものになれば、それを否定せず、一緒に取り組んでくれる設計業者に決めればよいだけです。この「WHAT」を理解し、共有できる相手が見つかったら、必ずしも相見積をとる必要はないとすら私は考えています。

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